【書評】「心理的安全性のつくりかた」から心理的安全性の作り方を考察する
「心理的安全性のつくりかた」という本からどのようにすれば心理的安全性のあるチームになるのかについて考察していきたいと思います。
前提知識:そもそも心理的安全性とは?
心理的安全性とはGoogleの「効果的なチームとは何か」という研究で最も重要であると位置づけられた概念です。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。
この心理的安全性があるチームはさまざまな良い効果があると報告されています。
心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が 2 倍多い、という特徴がありました。
Google re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
「心理的安全性のつくりかた」の要旨
ここから、「心理的安全性のつくりかた」の内容について私なりに理解した内容をまとめていきます。
日本における心理的安全性の4因子
本書では、日本における心理的安全性を確保する上で重要な因子として
・話しやすさ
・助け合い
・挑戦
・新奇歓迎
を提唱し、これらが活発に行える環境になることが心理的安全性に貢献すると主張しています。
さらに4因子を促進する方法について、3つのレベルからのアプローチ方法について論じていっています。
心理的安全性への3つのレベルからのアプローチ
心理的安全性へは
・構造・環境
・関係性・カルチャー
・行動・スキル
の3レベルからアプローチすることができると主張しています。
このうち「構造・環境」は会社や経営レベルの話になるので、一社員レベルでは変革が難しいとし、本書ではチームレベルの「関係性・カルチャー」へのアプローチに主眼を置いて、心理的安全性へのアプローチの仕方を紹介しています。
またチームレベルの「関係性・カルチャー」へのアプローチにはメンバー個々人のレベルの「行動・スキル」への働きかけが必要になってくることも併せて主張しています。
「関係性・カルチャー」の改善には心理的柔軟なリーダーシップが必要
チームの心理的安全性にかかわる「関係性・カルチャー」の改善には心理的柔軟なリーダーシップが必要と主張しています。
心理的柔軟なリーダシップとは
組織・チームの背負った歴史や文脈に応じて、あるいはアプローチする個々人の性質 に応じて、しなやかにチームの中の行動を活性化する
ということと紹介し、これを実現するためには
・必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる
・大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む
・変えられないものと変えられるものをマインドフルに見分ける
が重要だと主張しています。
「行動・スキル」に対しては行動分析的なアプローチが有効
個人のレベルの「行動・スキル」で心理的安全性に改善していくには行動分析的なアプローチが有効になると紹介しています。
行動をフィードバックする好子・嫌子という考え方
行動分析的な事項として好子・嫌子という考え方を紹介しています。
・行動をポジティブフィードバックによって促進する好子
(例:暑いときにエアコンの温度の下げるボタンを押すと下がるから、次回以降も暑い→温度下げるボタンを押すという行動を促進する)
・行動をネガティブフィードバックによって減退させる嫌子
(例:暑いときにエアコンの温度を上げるボタンを押すと上がるから、次回以降は暑い→温度を上げるボタンを押さなくなる)
このうち嫌子による行動の抑制は実はあまり有効ではないということを紹介し、心理的安全性を高めるような行動を促進していくうえでは、その行動をしたくなるような好子になるような対応が重要になると主張しています。
心理的安全性を高める4因子を促進する「行動・スキル」からのアプローチ
好子によるアプローチが必要であることを紹介したうえで
・話しやすさ
・助け合い
・挑戦
・新奇歓迎
の4因子を促進する具体的な方法を紹介しています。
※好子によるアプローチの促進をするためにはそもそもきっかけがないことにはフィードバックループも発生しないので、きっかけについても本書ではアドバイスされています。
【話しやすさ】
きっかけ:「何でも言ってくれ」ではなく具体的な問いかけを行うことで話しかけるきっかけになりやすくなる
好子:「報告してくれてありがとう」など話しかけたことがプラスになるような返しをすることが重要
【助け合い】
きっかけ:「困っていることある?」など受動的に助けを待つのではなく能動的に問いかけるとよい
好子:助けを求められた際になぜそのようになっているのか?と思ったときに「なぜ?」と返すと責められているような印象になる場合があるので、「どこが?」「なにが?」という問いかけで攻めているような印象をやわらげる工夫が重要
【挑戦】
きっかけ:シンプルに挑戦を歓迎するなどのアプローチが有効
好子:結果を共に振り返り、学ぶ姿勢で対応するのが有効、挑戦を提案した人が独力で対応しないといけない状況など嫌子になるような状況は避ける
【新奇歓迎】
きっかけ:個性の発揮を促すなどが有効
好子:工夫を評価しないなど嫌子になる行動は避ける
行動が増えても品質が伴わない場合は、プロンプトを活用する
報告が増えてもその内容が足りないような場合、心理的安全性を確保できて行動が増えてもその結果が有効に表れてこないことがあり得ます。
そのような場合には「プロンプト」と言って一緒にやってみたり、やり方を一緒に確認したり、あるいはその行動をするようにリマインドするなど相手のレベル感に応じてその行動が独力でできるようになるようにサポートすることが有効であると紹介されています。
以上のようにして個人の「行動・スキル」を心理的安全性確保のために向上させていくことが提案されていました。
カルチャーと行動両方に影響する言語
「関係性・カルチャー」、「行動・スキル」両方に作用するものとして、言語の重要性を紹介しています。
具体的には、「関係性・カルチャー」で出てきたの目標達成に向けての「大切なこと」をスローガン的に言語化することで、その言語化したルールが好子になっていれば、良い行動を促進していけるという内容です。
そのようなスローガンの作り方としてはチームごとで異なり、
・機能別チームは「個々人の大切なこと」の言語化
・プロジェクトチームは「大義」
を意識するとよいとの主張でした。
要するにどのようなことをすればいいのか?
ここまで「心理的安全性のつくりかた」の要旨について私なりに解釈をしてきました。
これらを振り返ると、
・話しやすく、助け合いが活発で、挑戦を容認するようなチームが心理的安全性が高い
・チームのメンバー個人が意識すべき点は、双方で話しやすく、助け合い、挑戦を促進するような反応を行うように意識することが重要
・チームのマネージャーはできることとできないことを見分け、できないことを無理強いせず、実現可能な、目標の達成に重要なことをスローガン化し、それを目指すようにすべき
ということが書かれていたと思います。
3点目の無理なことを無理強いするという例として下記の記事の内容を見つけました。
「うちの企業は毎年200人ほど新人を採用するが、1年経って残るのは半分以下。なぜなら、上司が新人たちに無茶な要求ばかりするから。たとえば営業なら、『1日で名刺を100枚もらってこい』と言われて、毎晩その日に名刺を何枚もらったかをチェックされる」(25歳/広告)
聞き取り調査で続々判明!「チャレンジ強要職場」の悲惨な実態 | News&Analysis | ダイヤモンド・オンライン
この話がどこまで本当かはさておき、
・実現不可能なことを無理強い
・チームの目標の達成に重要でないこと
をしており、まさに心理的安全性の確保に逆行する行いと思われます。
確かにこのような場合は、実現できなかったことをどう怒られずに報告するかや、どうごまかすかに苦心することになり、営業成績を上げることではなく、どううまくやり過ごすかに労力が割かれてしまい、チームとして成果を上げられないということが起きることが予想できます。
この例で本書の心理的柔軟なリーダーシップを発揮するとすると
・必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる
→新規開拓のために名刺を100枚集める目標をとっても、100枚も名刺が集まることはなく、有効な名刺はそれほど集まらないという事実を受け入れる
・大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む
→大切なことは新規顧客の開拓であり、名刺を集めることではない
・変えられないものと変えられるものをマインドフルに見分ける
→この方法で有効な名刺を集めることはできないが、新入社員に新規開拓の方法を教えたり、勉強をうながしていくことはできる。
といった風になるでしょうか。
手段が目的化することもビジネスではよく見られる光景のようにも思いますので、大切なことが何か、本当にやりたかったことが何かを意識していくことが重要なのかもしれませんね。
まとめ
この記事では「心理的安全性のつくりかた」という本を私なりに解釈し、心理的安全性について考えてきました。
本自体はさまざまなテクニックも含めて書かれており、勉強になるので、一読することをお勧めします。